文商 文田中

言葉の価値を開発提案する文章作成の総合事業

公開ライブラリ

『読ませる自分史のつくりかた』

第1章 個人史をつくる前に

2.誰に読ませたいか(ターゲット)

 前項「どうして個人史を作りたいと思ったか」に半ば答えのある問いである。余命云々ならば身内ということだし、創業者云々なら得意先・従業員・証券マン、「人に言われて~」なら、言ってくれた人に読ませたいわけである。かといって対象を限定しすぎると、作品としての普遍性がなくなる。

 意図した相手を中心とする大きなくくりを考えよう。

 つまりターゲットだ。性別・世代・趣味嗜好・職業等いろんな捉え方がある。語り掛ける相手の性質が明確であればあるほど、用いるべき言葉も、引用すべき比喩も変わってくる。ターゲットを明確に意識することで、今後の取材・企画構成・執筆への関わり方が定まってくる。

 さくら文研への依頼では、特定のターゲットを選択したのちも、ほとんどの場合「若い人にも読んでもらいたい」という言葉が聞かれる。個人史づくりの依頼者はだいたいが年配者だ。若い人に言いたいことはたっぷりあるし、それが後世のためになるという自負もある。

 とはいえ、例外もある。私のもとに問い合わせがあった個人史依頼の最年少は三〇代前半だが、なんと、この御仁も「若い人に」とのたもうた。いや、別に悪いことではない。私だって自伝屋を立ち上げた頃(三〇代後半だったが)、テストケースとして自分の自伝を書いてみたが、その中途に一瞬ではあるが「若い人に読んでもらいたい」という考えがよぎったのは紛れもない事実である。

 人は自伝を読まれることで読者の人生を依り代とし、別個の人生を生きようとするのかもしれない。

文商 文田中

ふみしょう たなか