第1章 個人史をつくる前に
1.どうして個人史を作りたいと思ったか(動機)
この問いは、個人史制作の全バックボーンにつながってくるので、必ずうかがう。個人史を自分自身の手で書こうと考えている人は、ついこういった内省を曖昧にしたまま先に進もうとしがちだが、必ず自らに問いかけてほしい。制作に迷いが生じた時に振り返るべき根本要素であり、行動の推進力になるからだ。
ちなみに、私が業務で扱った履歴を紐解くと、メールの投稿者は個人史に書く対象と別の人物であることが多い。
どこぞのご子息が
「父(母)の伝記をお願いしたくて……」
どこかの会社の役員や従業員が
「弊社の代表の伝記を周年事業で配布したく……」
といった具合である。
これらのケースは個人史を作る理由が明確だ。
「実は父(母)が余命を宣告されたので……」
「会社上場にあたり企業価値を向上させたくて……」
ひらめきやノリでなく、差し迫った必要があっての問い合わせだったりする。
もちろん、当人自身の問い合わせもある。その場合にしても自身の発案でないことが多い。身内や友人から「あなたの人生は面白いから本にしてみては?」と勧められて、その気になって問い合わせているケースがほとんどだ。こういう人は他人に勧められたからとはいえ、やはりどこか「自分の人生は面白い」と思っているので、いざ制作となると積極的で、面白いものが仕上がりやすい。
意外なことに、この時点で「儲けたい」「売れて人気者になりたい」という依頼者はほぼいない。取材等のプロセスを経て個人史全体の輪郭が浮かび上がってきてはじめて、「もしかして、これは売れるのでは?」と夢想が湧き、思い抱くようになる。
個人史を作りたい動機は人それぞれだ。その「それぞれ」を胸に抱き、熱意を絶やさぬようにしながら、制作を進行していく。